日本で最も古い芸能である能の世界では、人にあらざる者=妖・物の怪あやかしもの け)・魔物や化身が登場する演目が数多くあります。此岸と彼岸を自由に行き来 するのも、極当たり前のこと です。それは落語の世界 でも同じ。
今回の演 目『茄子娘』はナ スの化身(精)が 登場します。仏門に仕える 寺の和尚が、菜園で「大きくなったら私の(さい)(=食材)にしてあげよう」と語りかけながらナスを丹誠込めて育てていました。ある夏の夜、若く美しい女性が寺を訪れます。そこに突然の雷が鳴り響き、あわてて和尚は自分が寝ていた蚊帳(かや)の中に女性を招じ入れます(その昔、蚊帳は落雷を防ぐと言われていました)。
すると女性は「私は茄子 の精です。あなたの(さい)にしてください」とせまります。和尚は厳しい戒律を破って、女犯の罪を犯してしまいます。
翌朝、和尚は自身の罪深さを恥じ、諸国行脚の修行の旅へ出掛けます。5年の歳月が過ぎ、寺に戻ると菜園に幼女が立っていて、和尚に「お父様!」と駆け寄ります。聞けば、あの夏の夜に茄子の精が身籠もって生まれた子であり、母は亡くなり和尚の帰りを待っていたのだと言います。



「おぉ、愛しやわが子、5年もの間、ひとりでどうやって育ったのだ」と尋ねる和尚に 「親はナスとも子は育つ」と応える幼女…あれぇ? これで終わり? そうです!これが噺の全てです。怪談ともファンタジーとも言い難い短く単純な噺ですが、今でも「細々」と高座にかけられています。 
 
  夏野菜の定番であるナスは、千年以上前に大陸から栽培方法が伝わったとされる長い歴史をもつ作物です。本来熱帯系の植物ですが、日本人の食生活に定着し栽培北限がどんどん伸びて、今では北海道でも作られています。現在180種ほどの品種があり、その形などによって生で食べたり、漬け物、炒め物、煮物、田楽などの焼き物にと色々な料理法で親しまれてきました。英名ではegg-plants=卵の木と呼ばれます。  
   


夏場に食欲が落ちたときなどにお薦めのナスを使った料理が「だし」です。栄養価の高い野菜がたっぷり摂れて夏バテ防止にもピッタリ。そもそも農繁期の即席メニューですから作り方は至ってシンプル、代表的なレシピをご紹介しましょう。■材料 ナス1本/きゅうり1本/みょうが2個/オクラ3本/大葉3枚/納豆昆布(またはとろろ昆布)大さじ2/醤油適量/カツオ出汁適量
■作り方 @夏野菜と香味野菜をみじん切りにします。A刻んだ野菜をサッと水にさらしてアクを抜きます。B水で戻した納豆昆布に水切りをした刻み野菜を入れます。C出汁醤油をかけて混ぜ合わせれば出来上がりです。――温かいご飯にかけて食べるのが一般的ですが、麺類や冷や奴にのせてもシャキシャキの歯ごたえで、美味しく頂けます。
 
[旬の噺]は、季節の草花や農作物が登場する噺(=落語)の世界を紹介するコーナーです。