公益財団法人花と緑の農芸財団  『花を纏う』〜着物の中の花々〜TOPへ
羊歯
日本の伝統文化である着物に描かれた美しい花や緑の文様の数々を、染色家の久保田一竹氏(1917〜2003)が遺した作品を通して紹介している連載です。今回も前号に続き「藤の花」をモチーフにした作品、作品名は『流藤(りゅうとう)』です。
 前回ご紹介したように「藤の花」をモチーフにした着物は、日本人にとって古くから馴染みのあるものでした。
 麗しく群れる房の中の小さく愛らしい花をよく観察して見ると、その中に様々な「藤色」を発見する事が出来ます。
 「藤色」は平安時代の女官などが纏った襲の色目(表が薄紫、裏が青) にも見ることが出来ます。
 「藤色」はつる性植物としての藤の盛んな生命力や豊かな芳香と相まって、日本人に最も愛好される色のひとつとなっています。日本人の顔や容姿にも良く映える様です。「藤色」の染色は、藍と紅花(または蘇芳)の交染とされていますが、日本の伝統色には藤の花を表現するための数多くの色があります。 日本の伝統色
 色彩心理の世界で「藤色」の表現は、人間の自己回復力が働いていることを示すことが多いとも云われます。ある色彩心理学者は「藤色」を「癒やしの色」であるとも述べています。
能(のう)部分
 藤の名は花房が風に散る「風散」、あるいは、「吹き散る」様に由来するとも云われています。「藤」の字があてられた経緯はよく解っていません。
 作品『流藤』は紫の薄明かりの中、初夏の夜風に舞う藤の美しく優雅な揺らめき、絞り染めの点模様で描かれた水色の「星」が大きな鑑賞ポイントになっています。
──《若い人が着物を着るとき、派手な色のものばかり身に付けようとせず、地味な色合いでまとめたなかに一点派手なものを光らせる感じで着てほしい。派手なものと地味なものをうまく調和させる美しさが配色の美であり、配色の妙なのだから。
(久保田一竹自叙伝『命を染めし一竹辻が花』より)
 高い審美眼を持ち、日本の着物文化に新しい風を送り続けた一竹氏は、もちろん配色の天才でもありました。気の遠くなるような工程を経て、深い陰影と幽玄な色の世界を表現しました。
花の着物に出会う旅、久保田一竹美術館へ。
幻の染め――中世に誕生し桃山時代に華開いた「辻が花染め」の復活に心血を注ぎ、千辛万苦の末60歳でデビュー、世界中に一大ブームを巻き起こした染色家・久保田一竹。氏がこよなく愛した霊峰富士を望む大自然の中に建築された荘厳なる美術館です。
久保田一竹美術館 新館外観、本館展示室
イベント情報は久保田一竹美術館のWEB SITEで。
花を纏う〜着物の中の花々〜、着物画像
本記事は会報誌「花の心」に掲載されたものです。許可なく転載・複写・複製する事を禁止いたします。