公益財団法人花と緑の農芸財団  『花を纏う』〜着物の中の花々〜TOPへ
羊歯
日本の伝統文化である着物に描かれた美しい花や緑の文様の数々を、染色家の久保田一竹氏(1917〜2003)が遺した作品を通して紹介する連載、今回は2号にわたって「藤の花」をモチーフにした作品を取りあげます。
今号の作品名は『能(のう)』です。
 「フジ」と「ヤマフジ」は日本の特産で、全国に広く分布しています。つる性植物である藤の簪のように垂れ下がる華麗な花房は古くから日本人に愛されてきました。シーボルト(1796〜1866)が残した著述(『日本植物誌』)には江戸時代、満開の藤棚の下に集い歌舞音曲を愉しみ、即興の和歌の短冊を花房に掛ける風流な遊びが描かれています。
 文様として普及し始めたのは、時代を遡り平安時代後期。藤原一門の繁栄に伴い、公家の装束や調度品、陶磁器や漆器などの装飾に多用されるようになったとされています。藤がモチーフの家紋は50種類以上にも上ります。
 着物文様としての藤の花は、染めや刺繍、筆などで描かれ「巴藤」「藤立涌」「藤丸」「藤唐草」など多種多様です。
 一竹氏が二十歳の時に出会い、魅せられた古い辻が花の小裂にも藤の花が描かれていたと云います。
 日本の伝統文化を「基本として軽んじてはならない」としながらも、時代に抗わず、進化する事をためらわなかった 一竹氏。 能(のう)部分
──《より高い頂を目指して活動することが、次代に引き継ぐ伝統になるのであり、新たな美を誕生させるためには、古い殻は打ち破らねばならない。
(久保田一竹自叙伝『命を染めし一竹辻が花』より)
 氏の初期作品である今号の『能』の配色や構図は、桃山文化が花開いた時代の小袖を想わせます。そこに込められているのは、風俗や文化の下克上に拍車を掛け、現代に続く多彩な技法を生み出した「名も無き名工たち」への畏敬の念なのでしょうか。あるいは能の演目『藤』で汀を優雅に舞う「藤の花の精」への憧憬だったのでしょうか。
花の着物に出会う旅、久保田一竹美術館へ。
幻の染め――中世に誕生し桃山時代に華開いた「辻が花染め」の復活に心血を注ぎ、千辛万苦の末60歳でデビュー、世界中に一大ブームを巻き起こした染色家・久保田一竹。氏がこよなく愛した霊峰富士を望む大自然の中に建築された荘厳なる美術館です。
久保田一竹美術館 新館外観、本館展示室
イベント情報は久保田一竹美術館のWEB SITEで。
花を纏う〜着物の中の花々〜、着物画像
本記事は会報誌「花の心」に掲載されたものです。許可なく転載・複写・複製する事を禁止いたします。