公益財団法人花と緑の農芸財団  『花を纏う』〜着物の中の花々〜TOPへ
羊歯
日本の伝統文化である着物に描かれた美しい花や緑の文様の数々を、染色家の久保田一竹氏(1917〜2003)が遺した作品を通して紹介する連載、今号の作品は羊歯を染め描いた『無言(しじま)』。
 自らの人生を「美を求めた巡礼の旅」であると語り、日本国内は元より世界各国を取材で飛び回っていた一竹氏。『無言』は、ハワイ・カウアイ島の「シダの洞窟」を訪ねたときの感動を精緻な絞りで染め上げた作品です。
──《あまり日が当たらないためか、羊歯は謎を秘めた若緑をしている。そして長くしなやかに伸びた羊歯の葉脈を水が伝い、先端にたどりつくや宝石のように輝き滴る。その水の美しさがまた、何とも印象的であった。(久保田一竹自叙伝『命を染めし一竹辻が花』より) 無言(しじま)部分
 恐らく、一竹氏がハワイの羊歯と巡り会った当時は今ほど観光地化されておらず、奥深い密林の苔むした洞窟に太古から生息する羊歯の群れは、『無言』というタイトル通り、神秘的な静寂に包まれていたことでしょう。
 文様としての「羊歯」は、幾何学文様的に使用される他、その一種である「ウラジロ」が共白髪や子孫繁栄の象徴として尊ばれ、染色(染織)作品のみならず、陶磁器や漆器、革製品、金工・木工象眼などに数多く用いられています。
花の着物に出会う旅、久保田一竹美術館へ。
幻の染め――中世に誕生し桃山時代に華開いた「辻が花染め」の復活に心血を注ぎ、千辛万苦の末60歳でデビュー、世界中に一大ブームを巻き起こした染色家・久保田一竹。氏がこよなく愛した霊峰富士を望む大自然の中に建築された荘厳なる美術館です。
久保田一竹美術館 新館外観、本館展示室
イベント情報は久保田一竹美術館のWEB SITEで。
花を纏う〜着物の中の花々〜、着物画像
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