公益財団法人花と緑の農芸財団  『花を纏う』〜着物の中の花々〜TOPへ
三ツ葉躑躅
日本の伝統文化である着物に描かれた美しい花や緑の文様の数々を、染色家の久保田一竹氏(1917〜2003)が遺した作品を通して紹介する連載、今号の作品名は『おん(おん)』。前号に続き富士山を描いた作品です。
 厳しい冬を越え、裾野には千紫万紅と花開き、雪が溶けた樹海では羊歯植物が顔を出します。まるで富士に舞う名残雪の様に氏特有の精緻な墨書きによって描かれた美しい数多の花文様は、写実的な意味での「花」ではありません。しかし構図の中心に染められた紅紫の色は、一竹氏が好きだった【三ツ葉躑躅】の花群れを想起させてくれます。
 ツツジ科ツツジ属の落葉低木である三ツ葉躑躅は、やせた岩場などに自生する日本固有種で、耐寒性に優れ、葉に先立って開花します。その鮮やかな色は、富士桜と共に春の訪れを誰よりも早く知らせてくれます。
 ちなみに『おん』は、「ためぎ」とも読み「曲がった木を真っ直ぐに直す道具」(旺文社刊『漢字典』より)の意。江戸っ子気質で曲がったことが大嫌い、癇性でありながら情にもろかった氏が、念願の美術館を建立した喜寿の齢、1994年(平成6年)に制作された作品です。 (おん)部分 《自分の受けた感動をそのまま作品に盛り込むことができたとき、そして私の心象が白生地のうえに焦点を結ぶとき、私は作家として最高の喜びを感じる。》
(久保田一竹自叙伝『命を染めし一竹辻が花』より)
 ひと頃、盗掘などで激減した富士山の三ツ葉躑躅は、地元の人々の努力の甲斐あって復活の兆し。毎年、ゴールデンウィークには[河口湖富士桜ミツバツツジまつり]が開催されています。
花の着物に出会う旅、久保田一竹美術館へ。
幻の染め――中世に誕生し桃山時代に華開いた「辻が花染め」の復活に心血を注ぎ、千辛万苦の末60歳でデビュー、世界中に一大ブームを巻き起こした染色家・久保田一竹。氏がこよなく愛した霊峰富士を望む大自然の中に建築された荘厳なる美術館です。
久保田一竹美術館 新館外観、本館展示室
イベント情報は久保田一竹美術館のWEB SITEで。
花を纏う〜着物の中の花々〜、着物画像
本記事は会報誌「花の心」に掲載されたものです。許可なく転載・複写・複製する事を禁止いたします。