公益財団法人花と緑の農芸財団  『花を纏う』〜着物の中の花々〜TOPへ
楓
日本の伝統文化である着物に描かれた美しく雅な「花」や「緑」の文様の数々を、染色家の久保田一竹氏(1917〜2003)が遺した作品を通して紹介する連載『花を纏う』第4回は【楓】です。日本人に秋の風情を強く感じさせてくれる錦秋の山々。楓の葉が紅葉し、美しく色づく様を「もみじ」と呼びます。
 秋の代表的植物文である楓には、共に桜を配した「桜楓」や、格子状の枝の組み合わせ「紅葉格子」、鹿と楓の「楓鹿文」、色づく前の楓を描いた「青楓(楓文)」などがあり、今も着物や帯に数多く用いられています。
 今号の作品のタイトルは『秋陽(しゅうよう)』。金糸銀糸で水の流れを描いた背景に、手描きと絞り染めによって紅葉黄葉が散りばめられています。『古今集』の「竜田川 もみぢ乱れて流るめり渡らば錦 中や絶えなむ(詠人知らず)」に由来するとされる「流水紅葉紋」が一竹流の構図で染め上げられ、一隻の屏風絵を見るような秋の代表作品です。
 20歳の時に出会った辻が花の小裂に魅せられその研究に没頭し、60歳という「人生の秋」に初めて作品を発表した自身に重ね合わせ「一番好きな季節は秋」と語っていた氏は『秋陽』以外にも楓を描いた作品を数多く遺しています。 「春陽」部分
四季から宇宙に至る生涯を掛けた連作【光響】も秋の風景から始まります。
私の人生は、美の探求にとり憑かれた巡礼の旅かと思うときがある。その私をとりわけ謙虚に、素直にしてくれるのが大自然の美である。人為を超えた森羅万象の前で、私は跪かずにはいられない。
 (久保田一竹自叙伝『命を染めし一竹辻が花』より)
 高貴な古人の遊興であった紅葉狩り、今年の秋は河口湖で過ごしませんか。
久保田一竹美術館の燃える秋景(本館脇太鼓橋)
花の着物に出会う旅、久保田一竹美術館へ。
幻の染め――中世に誕生し桃山時代に華開いた「辻が花染め」の復活に心血を注ぎ、千辛万苦の末60歳でデビュー、世界中に一大ブームを巻き起こした染色家・久保田一竹。氏がこよなく愛した霊峰富士を望む大自然の中に建築された荘厳なる美術館です。
久保田一竹美術館 新館外観、本館展示室
イベント情報は久保田一竹美術館のWEB SITEで。
花を纏う〜着物の中の花々〜、着物画像
本記事は会報誌「花の心」に掲載されたものです。許可なく転載・複写・複製する事を禁止いたします。