公益財団法人花と緑の農芸財団  『花を纏う』〜着物の中の花々〜TOPへ
二葉葵
日本の伝統文化である着物に描かれた美しく雅な「花」文様の数々を、染色家の久保田一竹氏(1917〜2003)が遺した作品を通して紹介する連載『花を纏う』第3回は【二葉葵】です。二葉葵はウマノスズクサ科の多年草。地中から伸びる長い茎の先に開く大きなハート型の二葉の間から、薄紅色の釣鐘型の愛らしい花が一輪咲きます。
 京都・賀茂神社(上賀茂神社・下鴨神社)の神草として「賀茂葵」の異名を持つ二葉葵は、祭器などに印される神紋として意匠化され古来より大切に扱われてきました。京都三大祭の中で最古の歴史を持つ賀茂祭(=葵祭)の飾り草として毎年約1万本の二葉葵が使用されています。
 二葉葵を原型とする文様には葵唐草、立葵、葵丸などがあり、着物や帯に多く使用されてきましたが、巴葵(=三つ葉葵)が徳川家の家紋とされていた江戸時代には、その一族以外で用いられることはありませんでした。
 今号の作品のタイトルは『葵(あおい)』、サブタイトルは「象徴」。背景には久保田一竹氏の家紋「七宝の花菱」が幾何学的な紋様として染め上げられ、そこには様々な花模様が織り成す【二葉葵】が大胆な構図で描かれています。 「葵」部分
人の心を和やかにする花の生命は、貴いものである。どんな花でも美しくないものはなく、たとえ道端に密やかに咲く名もない草花でも、一つひとつ丹念に眺めれば、思いもよらぬ美しさに驚かされる。
 (久保田一竹自叙伝『命を染めし一竹辻が花』より)
 春、山の清流のほとりや深い杉木立の中で人知れず楚々と咲く二葉葵の花
──その花言葉は「細やかな愛情」です。 二葉葵の花
二葉葵の花の画像は、成田 篤氏(野田市在住)にご提供頂きました。成田氏のブログ[星庵徒然]には自然の花や虫の画像が満載です。
花の着物に出会う旅、久保田一竹美術館へ。
幻の染め――中世に誕生し桃山時代に華開いた「辻が花染め」の復活に心血を注ぎ、千辛万苦の末60歳でデビュー、世界中に一大ブームを巻き起こした染色家・久保田一竹。氏がこよなく愛した霊峰富士を望む大自然の中に建築された荘厳なる美術館です。
久保田一竹美術館 新館外観、本館展示室
イベント情報は久保田一竹美術館のWEB SITEで。
花を纏う〜着物の中の花々〜、着物画像
本記事は会報誌「花の心」に掲載されたものです。許可なく転載・複写・複製する事を禁止いたします。